社員のモチベーションを上げる新規事業と下げる新規事業

社員の新たな負担がモチベーションを下げてしまう

社員30人ほどの製造会社が新規事業を立ち上げました。新たな製品を開発し、新たな販売ルートで市場に出す、とても勇気の要る決断です。
とはいえ、新規事業のために必要な人財を新たに採用するほど資金力は十分とは言えず、リスクも掛けられない。既存製品の製造に携わる社員に、新製品の製造という新たな負担を強いることになりました。また、これまで既存の販売先と関係を繋いできた数少ない営業職が、新たに新規販売ルートを開拓する任務を負うことになりました。

もちろん、この会社の社員は、既存事業の売上減少を認識していましたし、このままでは将来が厳しいことを理解していました。ですから、新規事業を始めることに期待を抱いていたのです。
ところが、製造部門も営業職も既存事業をしっかり維持しながら、新たな負担がのしかかることになり、新製品の生産性は伸びず、販売ルートの開発もなかなか進みません。社員の皆さんは、負担だけ大きくなり新たな事業がうまくいかないことで、徐々にモチベーションを下げてしまい、既存販売先まで失うことになってしまいました。

新規事業に長けた人財の採用を決断

そんなタイミングでご相談をいただき、私はまず全社員のヒアリングをさせていただき、新規事業に対して多くの社員が「総論賛成、各論反対」であることを確認しました。経営者の想いが十分に浸透していない、今の営業体制では販売先が拡大しない、などのご意見もいただきました。
それから経営者とディスカッションを重ね、新規事業専任の営業職を採用することにしました。新規事業の中期的な事業計画を作成し、保守的なケースでも、新規営業職のコストを2年目には吸収できる見込みがついたからです。また、新規事業に関わる既存社員のコストも、その関与度に応じて新規事業のPLに振り分けることにし、既存事業のコストが下がった分を原資として、新規事業への貢献に応じたインセンティブ制度を導入しました。

新規営業職の採用は大きな決断でした。販路を全国に拡大するため、採用に十分時間をかけ、最終的に首都圏の大手企業で活躍していた、新製品の販売先に明るい経験者を採用することにしたのです。報酬もこの会社の水準には収まらず、雇用形態を調整する必要もありました。
経営者には、改めて新規事業の必要性と中期戦略や、この営業職の採用と役割や既存社員へのインセンティブの意味について、しっかりと社員にご説明していただきました。
新営業職の待遇について、既存社員の水準を超えていることを既存社員は認識していて、最初のうちは「お手並み拝見」の態度が支配的でした。

 

新たな負担をインセンティブで吸収

 

ところが2ヶ月も断たないうちに、既存社員の雰囲気が変化していきます。新たに採用した営業職が大きな販売先を開拓してからです。歳上の営業職も協力的になり、新製品の受注拡大によって、製造職もインセンティブとして僅かではありますが報酬が増えていきました。それから、新規採用と既存の営業職が協力して販売先を拡大していき、製造職の負担は増えましたが新製品の追加生産に応じたインセンティブを得ることができ、社員の表情は明るくなり、モチベーションが上がっていきました。驚いたことに営業チームは既存製品でも新たな販売先を増やしていきました。

限られた社員数での新規事業は、既存社員に新たな負担を強いることになります。既存販売先の死守するため頑張っている営業職による、新規販売先の開拓も大きな負担になり、また異なる販売ルートを単独で開発することには限界があります。

このケースでは、経験豊富で新たな販売ルートに明るい営業職を新たに採用することにより、販売先が拡大し、その実力を既存社員が認め、新規事業による製造職の負担もインセンティブの導入によって補うことによって、ポジティブなループが生まれ、計画を超える新規事業の拡大につながりました。

新規事業を始めるにあたって、既存社員の追加負担を考慮し配慮すること、必要があれば専門人財の採用を決断すること、新規事業のPLを既存事業と完全に切り離し、しっかりした戦略と計画を立てて、全社員に共有し理解を得ることが、成功の一因だったと思います。